手のはなし / 佐藤菜生

佐藤菜生さんは2005年に多摩美術大学グラフィックデザイン学科に入学し、その年の竹熊の「漫画文化論」で「骨」という作品を提出してきました。11ページの短篇で、彼女のストーリー漫画第1作になります。森のクマと、死んだ恋人の骨を抱いて物思いに沈む少女とのやや観念的な会話劇でしたが、全編に流れる静謐な叙情性が印象的で、私は「A」を付けました。絵柄は漫画というよりイラスト絵本風で、上手でしたが、後の彼女の画とはかなり違います。Aをつけたものの、彼女は漫画ではなく別の道に行くのだろうと考えた私は、そのまま忘れていました。

ところが2008年の暮れ、彼女から私に話しかけてきました。夏に2作目「みずうみの果実」を「マンガエロティクスF」に投稿したら、奨励賞をもらったとのこと。作品を見た私は、商業漫画を意識して創り上げた彼女の画の変貌ぶりに驚きました。大学4年になって、彼女は漫画の道に進むことを決意し、夏休みを使って30ページの作品(みずうみの果実)を描いたというのです。私は、創刊準備中だった同人誌「コミック・マヴォ」への寄稿をお願いし、Vol.2に掲載しました。 それが今回掲載する3作目「手のはなし」です。重い主題を優しく見つめる眼差しと、静謐な叙情性は処女作から一貫する彼女の個性だと思います。[竹熊]

「手のはなし」の「手」とは、主人公トモコの兄の手のことです。

本作は兄の心の病とそれに直面したトモコの戸惑いを描いていますが、ラストにあるトモコの“気づき”を、「手」によって表現しているところが見どころのひとつです。

3作目にしながら佐藤さんの感性が光る良作となっています。[吉江]

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