吉野の姫 / 丸山薫

 丸山薫さんの『吉野の姫』は、2005年8月に大阪で開かれたFLASHアニメの見本市「JAWACON」で公開されたアニメーション作品です。上映会の性格からもわかる通り、全編FLASHというソフトで制作されているのですが、アニメ制作に詳しい人だと「え?FLASH?」と逆に驚くかもしれません。FLASHは動きをソフトが自動生成してくれるので、手軽にアニメが作れる反面、動きがFLASH特有のぎこちないものになってしまいます。ところが『吉野の姫』のスムーズな動画は、一見してFLASHには見えません。丸山さんが中割(絵と絵の間の中間の動画)を1枚1枚手で描いているからです。こういう作り方をする時はFLASHではなくAFTER EFECTSなどの本格的アニメ制作ソフトを使うのですが、制作当時、丸山さんはAFTER EFECTSを所有していなかったそうです。ちなみに上映会の時点ではアフレコが完了しておらず、セリフ字幕が入っているのはそのときの名残です。  竹熊はこの上映会を見て、PC制作による個人制作アニメーションが非常に高いレベルに達していることを確認しました。公開1年後に私は毎日新聞社「まんたんブロード」で『吉野の姫』について書き、丸山さんにインタビューしているのですが、ここで作者の口から、この作品は最初マンガとして構想されプロットまで完成していたものを、急遽アニメとして制作されたこと。企画変更から上映会まで1年もなく、脚本とコンテが完成してから作画完了まで2ヶ月強しかなかったこと。すべての作業を丸山さん単独でこなしたことを聞いて、アニメとマンガ双方を個人で製作しようとしてかなわなかった手塚治虫の夢が、知らぬ間に実現していることに気がついたのです。丸山薫さんの『吉野の姫』インタビューは、「たけくまメモ 5月2日更新分に掲載しています(目次ページにリンクあり)。

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