実力派復活!齋藤なずなは遅咲きの、しかし、大人の読むに耐えるマンガを描く実力派作家である。デビューしたのが一九八七年一月十日号(実際の発売は前年十二月)「ビッグコミック」であった。新人賞佳作として掲載された「ダリア」は驚異的なまで上手く、私はただちに切り抜いてファイルした。しかも、デビュー時、四十歳であり、それまでイラストルポのたぐいしか描いたことはなかった。

 その後、「ビッグ」各誌、また、今は廃刊となった「話の特集」で齋藤なずなの作品をしばしば目にするようになった。ほとんどが短編で、その無駄のない構成と人物描写の巧みさにいつも感心した。女性マンガ家は、少女マンガは別にして、多く身辺雑記風エッセイマンガを得意とするが、遺憾ながら大人をうならせる作品は少ない。齋藤より八年早くデビューした近藤ようこは、その少ない実力派マンガ家の代表だが、素晴らしい好敵手が出現したと思った。『鳥獣草魚』『片々草紙』『迷路のない町』など、何度読み返しても感動する。しかしこれら単行本が書店の棚から消え、齋藤なずなは家族の介護で執筆が困難という噂が伝わってきた。私は、それでも、齋藤のすばらしさが忘れられないように、友人たちにこれを薦めた。ところが、先日、精華大の教え子たちの作品とまじって、齋藤の新作が同人誌「キッチュ」に掲載された。十数年ぶりだろうか。しかし人間観察の鋭さはいささかも衰えていない。さらに新作も準備中だと聞いた。沈滞するマンガ界に大きな刺戟となるだろうと、今から胸がはずむ。[マンガ評論家 呉 智英(くれ ともふさ)]

 齋藤なずな氏を作品よりも先に本人を知った。初めてお会いした時、若造の私に腰がひくく、ニコニコしながら丁寧な言葉遣いをしてくれた。それでも氏から内包される作家としての自信と人間の深みをあふれ出していた。のち気になって氏の作品を探して読み漁った時に受けた衝撃はいまだに記憶に新しい。数年後自費出版の小紙になんと全四十八ページの書き下ろし「トラワレノヒト」を描いていただいた。当時四年目で数多くの作家から原稿をいただいてきた私だが、こんなにも手が震えるものは初めてだった。今回は電脳マヴォで氏が日本近代文人たちの生と死を描いたシリーズや、オリジナル短編など数々の傑作を紹介していきたいと思う。齋藤なずなという作家の存在自身が、事件なのだ。[総合マンガ誌キッチュ責任編集 呉 塵罡(ゴ ジンコウ)]

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