ケジタンの居場所について

枡野浩一(歌人・芸人)

 作品を置く場所が大切だと思う。「電脳マヴォ」を読んでいる方には言うまでもないことだろうけど。置かれるべき場所に置かれたとき、その作品はひときわ輝く。もちろん「あえて本来の居場所ではないところに置かれることで輝く」という例も多々あるはずだが。いずれにしても居場所って大切だ。テレビに出ている芸人は一番面白い芸人というより、テレビに出るのに一番向いている芸人なのだろう。テレビよりライブのほうが、より輝くことのできる芸人として、たとえばラーメンズがいる。いや、ラーメンズくらいしか皆の知っている例を挙げられないのが悔しいけれど。お笑いライブに足を運んでみるとわかります。ライブで空気の震えを共有する面白さと、メディアをくぐり抜けて届くものの面白さは別物なのだと。音楽なんかでも痛感しますが。そういえば、決勝戦進出メンバーが発表されたばかりのR-1ぐらんぷり。決勝戦に残った芸人は、たしかにそれにふさわしい魅力の持ち主ばかりですが(事務所SMAの先輩、ロビンフットおぐさんの優勝を信じています)。予選をすべて通して見てみると、三回戦あたりに「好きだったのに勝ち抜かなかった芸人」がそれはそれは大勢いて、歯がゆくなります。


 SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)所属の二人組、ケジタン。テレビ(「あらびき団」他)に出たこともあるそうだけれど、私が初めて出会った「場所」は、高円寺の劇場だった。二人は幼なじみで、おもにアイデアをつくっている土井健司さんは、ひきこもり歴が長かったという。ライブのフリートーク部分では、絵や音や映像の仕上げを担当している藤原健太さんがほぼ一人で話していて、土井さんはほとんど話さない。ほとんど話さない芸人は、なるほど、テレビにはなかなか呼ばれにくいかもしれません。彼らがそれぞれピン芸人としてR-1に挑戦し、藤原さんが二回戦(2014年)、土井さんが三回戦(2013年)で落ちてきたというのは、じつに象徴的だなと、ため息がでます。


 高円寺で、ケジタンに、ひとめぼれをした。


 そのライブはソニー芸人しか出てこないライブで、なぜ売れてないのかわからない技術と見た目を兼ね備えた芸人が多数いる中、「これってお笑いというワクに入ってるんだろうか」と不安になるタイプの芸人も次々と出てきた。マニアックなドラム演奏の物まねをするドラム芸人かきくけこさんなどは、もともと人気バンドのドラム担当だったという。その日まで芸人をめざそうと考えたことなど一度もなかった私は、「ここに歌人である自分が混じっていない理由」を考え続けたあげく数週間後、SMAの中に飛び込んでいた。つまり私が歌人という芸名の芸人を始めたのは、SMAにケジタンたちがいたからでした。と言っても過言ではないが、ケジタンたちみたいな芸人しかいなかったら、怖くなってSMAには近づかなかったかもしれません。


 これからケジタンのネタ動画を見る方はびっくりするだろうと思いますが、ライブで同じネタを見たら「えっ」ともう一度びっくりするはずです(この動画ネタをライブで見るという体験自体に、ある驚きがあるのです)。もしも気になったら、ソニー芸人の砦である、「千川びーちぶ」に、ぜひ来てみてください。あのバイきんぐも通い続けた(コウメ太夫さんは今も通い続けている)千川びーちぶは、地下芸人中の地下芸人がひしめき合う、魅惑のライブハウスです。ケジタンは「ステレオ紙芝居」(?)のネタだけでなく、説明しにくい謎の試みを毎度いろいろやっています。ケジタンは、彼らから最も遠いところにいるように見える、王道をいく先輩方にも一目おかれているようです。その、「王道から外れた変てこなものも積極的に面白がる空気」こそが、ヨシモトではない後発事務所SMAで切磋琢磨する芸人たちの、強みであり、希望なんじゃないか、なんて思ったりもします。

 それにしても、ひとめぼれの瞬間から「出版界やネット界との親和性が強いんじゃないか」と思っていたケジタンが、竹熊健太郎さんのおめがねにかない、「電脳マヴォ」で連載することになるなんて! そうなったらいいなと夢想していたことが現実になり、じつにすがすがしい気持ちです。多くの面白い人にケジタンが見つかりますように。そして千川びーちぶにますます楽しい人が集まりますように。なお私がSMAのライブに足を運んだのは、元芸人である作家の松野大介さんが強引に連れていってくれたからでした。ケジタンのネタを面白がり、ネットで動画公開するよう最初にすすめたのも松野さんだったそうです。この場を借りて、改めて深謝を!

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