終末を予言された年でもある1997年、海の底に沈んだ東京の上で陽気に暮らしながら、かつての夢を拾い上げる人々を描く、『ビッグコミックスピリッツ増刊号』掲載の「水の下の千の夢」でデビューしたおがわさとし氏は、多岐に渡って活躍して、創作を発表してきたが、商業誌における作品発表数がとりわけ多い方ではなく、寡作な作家として認識される場合もある。

 柔らかいタッチを使って人間のピュアな、それも時々残酷な一面をひそかに囁く。そのせいかほんのりと暖かい物語のはずが、気が付くと読者が「低温やけど」をおこしてしまう。それがおがわ作品なのだと思う。あくまでもマイスタイルを維持することに固執しているように思わせる作風に、商業誌特有のニオイに染まることなくのんびりとしているように見えてしかし、(創作行為イコール己を追い詰めることであると例えるならば)あくまでも自分というものをとことん追い詰める作家と言えよう。

 ここではおがわ氏のデビュー作をはじめ、いくつか来るべき破滅の世界における人間模様の短編作品を掲載してから、暖かく甘くも死の影に包まれるメルヘン世界にいざなうファンタジー物語を紹介していきたい。[総合マンガ誌キッチュ責任編集 呉 塵罡(ゴ ジンカン)]

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